松枝 崇弘 様

2023.03.10

エリア:大木町

店舗・施設をその地域でオープンしようと思ったきっかけは?

 

幕末、明治、大正、昭和へと農家の副業として始まった久留米絣は、最盛期には年間220万反が作られ、三潴地域でも約3分の1の生産がなされていました。明治初期から続く久留米絣の織元3代目の玉記、私の曽祖父の代で産業から工芸へと歩みをはじめ、重要無形文化財久留米絣技術保持者会会長として久留米絣の発展と継承に努める日々でした。

私は一旦は、県外で別の職業に就きましたが、父の病を機に、2020年より久留米絣の道へと歩み出しました。父は亡くなるまでの4ヶ月間、つらい表情をけっして見せることなく、技術と想いを私と家族に伝えてくれました。現在、私は7代目の後継者となって、母と共に制作に打ち込んでいます。デザインから始まり天然藍を建て、かすり括り、染め、機(はた)織までの36段階の工程を経て完成する久留米絣には、手仕事による温かく、深い魅力が詰まっています。それを少しでも感じて頂けるような作品創りを心がけています。

 

 

商品の特徴を教えてください

 

家業に戻ってからは、学びの日々です。染料となる藍の管理や染めなど、受け継いだ技術と実際の製作とを紡ぎ合わせていくようです。水質だけでも、影響されることは大きいです。大木町の本家と田主丸と2つの工房を持っているのですが、染めに個性が出ます。大木町ではやわらかく、田主丸ではキリッとした色・風合いになるので、染めは田主丸の工房で行っています。

三潴地域の久留米絣は、絵絣(えがすり)と言って、大柄のモチーフが特徴で絵画的な模様を用います。絵絣のような大柄は高い技術が必要です。久留米絣は、先染めと言って、糸の染色の段階ですでに糸に文様が入っており、それを紙に描いた図案などと照らし合わせながら機で織ります。大柄の方が、図案のずれが顕著になりますから神経を使います。機織りは、職人のその時の精神面やコンディションが大きく影響されますから、いかに心身を平穏に保つかも大切になります。

また職人によって、表現したい柄、得意な柄が異なります。私と母は幾何学模様の、父は自然や光をモチーフにしていました。私も今後、父の光の文様を受け継ぎつつ、自分だけの文様に挑戦していきたいと思っています。デザインや職人の個性もぜひ注目してみてください。

ストールなどの小物はふるさと納税のWEBサイトで購入いただくことができます。着物は、直接工房にご連絡いただいて、気に入ったものがあれば購入できます。

 

 

職人として活動して良かったと思ったできごと、大変だったことは何ですか?

 

自身の手ではじめて織り・製作したものが、お客様の手に渡った時の感動は忘れられません。着物に仕立て上げて、購入した方がそれを実際に身にまとってくださってはじめて完成だと思います。その方の笑顔を見たり、お褒めの言葉をいただいた時、とても誇らしく励みになります。

私は、大学では経済学部に所属し、美術・デザインの思考や技術は家業を継いでから、いちから学びはじめました。久留米絣とは、5歳で機織、7歳で糸の染色を体験していていつも身近にありましたし、本家に資料が豊富に遺されていました。子どもの頃、父と遊びの中で体験した思い出も含めかけがえのない財産です。

ご縁があり、友禅の重要無形文化財保持者(人間国宝)である、森口邦彦先生にもご教授いただいています。「着物のデザインとは何か?」といった、基礎からお教えいただいています。とても貴重な体験だと思っています。

日本伝統工芸展などに出品も行っています。人の目、手に触れてもらうという発表の場も学びです。他の分野の作家の作品に、私自身が触れることも刺激になります。職人としてこれからも技術と感性を磨いていきたいです。

 

 

今後はどのようなことをしたい、どんな風になったら良いな!と考えていますか?

 

一度地元を離れアパート暮らしをしたことで、良さを改めて感じました。昔ながらの平屋家屋のすばらしさを感じ、庭に降りて土いじりすることで癒やされてます。大木町は、どこまでも続いていくかのような平野で、自転車等での移動がとても楽です。一見すると単調な景色のように感じていましたが、日々の風や雲といった天候による変化が、町中に張り巡らされた堀の水面に映りこむことで毎日違った表情が見られるのだと気が付きました。これからも守っていきたい景色ですね。農作物もおいしいので、「道の駅おおき」内にある「ビストロくるるん」などで、新鮮な大木町産の野菜などを味わってもらいたいです。

久留米絣の機の音を絶やすことなく繋いでいく、というのが職人としての目標です。大木町というこの土地・環境の中で発展し、受け継がれてきた文化としての久留米絣を遺し、町の更なる発展に貢献できるような活動にしていきたいと考えています。現代では、久留米絣は、着物だけでなく、オーダーシャツ、ジャケットなどの洋服にも用いられています。伝統の製法を守りながら、時代に合わせて柔軟に変化しています。また、久留米絣は、裏と表の文様が同じという特徴があるため、生地を返して仕立て直すこともできます。私の母の振袖も仕立て直して、結婚式の際に妻が纏いました。色あせてもお湯通しをすることで色が生き返りますので、大事に着ていただけたら次の代に受け継ぐこともできます。そうやって、みなさんの生活に寄り添い、長く愛されていく作品を作っていきたいと思っています。

 

松枝織物有限会社、松枝玉記生家
所在地
大木町大字笹渕413番地 (田主丸の工房:久留米市田主丸町竹野3)
営業時間
事前連絡にて
駐車場
あり

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